『アンタッチャブル』
[The Untouchables] (1987)
―― ハリウッドいぶし銀俳優の競演 ――
“笑いながら、撲殺”――デ・ニーロにしか演じられぬ狂気。
シカゴを牛耳るマフィアのドンたちが、宴席を取り囲んでいた。白亜のクロスも眩しい巨大な円卓。正装に身を
包んだドンたちの威容は壮観でさえある。デ・ニーロ――いや、アル・カポネが彼らの背後を意味ありげに
回遊していた。「組織を裏切る者は…」――カポネの足が止まる。振りかぶったバットが、ひとりのドンを打ち据え
た。後頭部に響く鈍い音。飛び散る返り血。流れ出した鮮血が、純白のクロスに広がっていく。笑顔と狂気。
役者馬鹿デ・ニーロの独壇場である。
1930年代、アメリカは禁酒法の下にあった。自分勝手に酒を製造することが違法だった時代。禁止されると
人の欲望は高まっていくのは世の常だ。法律なんかクソ喰らえ!――とばかりに、闇の酒で荒稼ぎする
シカゴ・マフィア。デ・ニーロ演じるアル・カポネは、そんなシカゴの暗黒街を牛耳ったマフィアの大ボスである。
カポネの容貌に迫るべく、自前の前髪を毛抜きで丹念に抜き、体重を増やしてカポネになり切るデ・ニーロ・
アプローチ。映画の魅力は、俳優のマニアック度に比例する。惜しくも亡くなったが、『Gメン'75』 の黒木警視正役
――丹波哲郎は、たしかそんな匂いのする名優だった。
タイトルの『アンタッチャブル』 は、"The Untouchable"(誰にも買収されない面々)――ケビン・コスナー演じるエリ
オット・ネスが率いた財務省所属のマフィア摘発班のこと。メンバーの一人、飲んだくれの老警官にショーン・コネリ
ー。映画ファンならずとも嬉しくなるキャスティングだろう。名優デ・ニーロと重鎮コネリーの競演。コネリーに用意さ
れたのは、イタリアンオペラが響き渡る中での壮絶な殉職シーン。コネリーの名演に、まばたきするのも忘れる。
デ・ニーロとコネリー。ハリウッドいぶし銀俳優たちの見事な競演、見逃すべからず…。
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